上海教育事情ブログ

上海で個別塾「上海個別塾(シャンコベ)」を運営しつつ、上海の日本人向け教育事情についていろいろと書いていきます。上海だけでなく、他の海外からの中学受験、高校受験、大学受験について、一般入試や帰国生入試に分けてリアルな状況をお話します。

志望理由書の書き方(標準編 後半)

前回、志望理由書の書き方(標準編 前半)を書きました。標準編では、志望理由書の中心となる「自分の経験」の書き方をお話しています。

さて、前半で書いたように何かの経験をしてみた、あるいは、もともと自分で何かにずっと取り組んできた、ということがあれば、次に「その経験をどう整理して書くか」を考えます。

整理とは、不要なものを捨て、必要なものだけを残し、そして正しい順番に並べることです。どれだけいい経験をしてきたとしても、整理がしっかりとできていないと相手にうまく伝わりません。では、不要なものと必要なものとはなんでしょうか。

1. 経験の書き方(悪い例)

例えば、帰国子女であることの経験を書きたいとします。何も考えずに書くとこんな感じになることが多いと思います。

私は小学5年生から中学3年生までをタイのインターナショナルスクールで過ごした。タイの生活リズムはゆっくりしていて、おおらかな人が多いため、海外生活が初めての私にとっては過ごしやすい国に感じた。タイに来た当初は、タイの物価が低いことに驚き、日本とは全く異なる経済事情に興味を持った。しかし、経済発展が著しいタイでは、徐々に物価が高まり、その変化の大きさに社会の歪みが生じていることを感じるようにもなった。例えば、不動産の価格が上昇し、結局もともと資産を持っている階層だけがより資産を増やし、逆にそうでない階層についてはどんどん貧しくなっている。そのような状況を体感するなかで、私は経済学を学び、経済発展する国のさまざまな問題の解決にかかわりたい思うようになった。

さて、経験の書き出しとしてこういう内容を書く人はとても多くいます。その前後の内容などにもよりますが、こうした経験の書き方はそれほど良い志望理由書とは言えません。以下、何が良くないのかをまとめます。

  1. 経験したことが、そこで住んでいなくても経済指標を見たり旅行したりすればわかること。
  2. 本人が経験したことは、タイで生活をしたというだけで、具体的なことが書かれていない。
  3. 「変化の大きさに社会の歪みが生じている」の具体例が不動産の価格上昇の話であるが、それが本当に「歪み」になっているのか感覚的でしかない。
  4. 「タイの生活リズムはゆっくりしていて…」という個人の感想は稚拙に見えるので基本的に不要。
  5. 「経済発展する国のさまざまな問題」が何かについて漠然としていて明確に説明できていない。
  6. どれくらい物価が生じたのかを具体的なデータで示せていない。

以上が、この経験で指摘できる改善を必要とする点です。この悪い例をもとに、経験を書く上で必要なことをまとめると、それは何を経験し、何を学び、何をすべきだと考えたのかを具体的かつ客観的に、そして明確に書いていくということです。極めて基本的なことですが、多くの人は文章の内容に自信がないため、ぼかしたり、感覚的に書いたりしてしまいがちです。

2. 経験の書き方(良い例)

以下に、上の経験を修正したものを載せます。

私は小学5年生から中学3年生までをタイのインターナショナルスクールで過ごした。タイに来た当初は、タイの物価が低いことに驚き、日本とは全く異なる経済事情に興味を持った。しかし、経済発展が著しいタイでは、徐々に物価が上昇し、私の興味は実感する物価上昇とデータでの物価上昇との違いに移っていった。例えば、バンコクで人気のレストランの値段はこの5年間で全体的に2倍近く上がった。一方、消費者物価指数は2012年から2017年では約5%しか増えていない。この差がなぜ生じるのかを深く理解したいと思ったのが私の経済学への興味の始まりであった。

調べていくうちに、一橋大学の阿部修人教授が、消費者物価指数と実感値の差を減らそうと新しい指数として「一橋大学消費者購買指数」を作るなど、より正確な経済指標そのものの研究が現在進行形で研究されていることを知った。そこで自分でも、タイの消費者物価指数と実感値との差を知ろうと、学校の友人たちに協力してもらい、100世帯に物価意識調査のアンケートを行いデータ分析を行い、消費者物価指数と比較したものをまとめた。その中で、特に最低賃金が上昇したとき、物価上昇意識がデータと大きく乖離することを明らかにし、それを学校でEEとして提出した。学校の先生からの評価も極めて高く、物価を正確に測ることへの期待や可能性が高いことを強く感じた。そして、将来的には発展途上国におけるより正確な経済指標を専門的に研究したいと思った。

 

このように、できるだけ具体的に事実、そこから経済学の中でも具体的な問題意識、そして自分の経験へと全体を通して具体的に話を展開していくことが重要です。徐々に具体的にしていくことで、あなたが何に取り組みたいのかが見えてくるようになります。最初は字数制限にかかわらず長い文章になってもいいので、できるだけ具体的に書いていってください。

3. 経験を書くときは逆三角形をイメージする

重要なことをまとめます。経験を書くときは、まずは大きな話から始めて、徐々に具体的に書いていくことを意識します。その際、ぼかすことなく、具体的に、具体的に、と書いていくことで、相手もあなたの人物像を想像できるようになってきます。

イメージするべきは、逆三角形です。抽象的な内容から、徐々に具体的に、そして最終的には唯一の存在としてのあなたに絞っていくようなイメージです。例えば、上の経験を書いている文では次のような流れになっています。

① 経済学に興味を持った。(抽象)
② 経済指標と実感値の違いに注目した。(抽象→具体)
③ 先行研究を見つけて、自分でも調査してみた。(具体の展開)
④ 経済指標に表れない要素を発見して、もっと深く研究したいと思った。(今後への課題)

ただ具体的なことだけ書いても日記のようになったりしますし、抽象的なことだけ書いてもただの情報の羅列のようになったりします。抽象から具体へと徐々に話を展開することを意識してください。なかなか適切な言葉が見つからないこともありますが、調べたり、本を読んだり、先生に聞いたりして、なるべく適切な言葉を探していく作業、それが志望理由書です。

次回は発展編として、近未来でやりたいことの書き方について説明したいと思います。

志望理由書の書き方(標準編 前半)

前回、志望理由書の書き方(基礎編)を書きました。基礎編では、志望理由書の「基本的な型」をお伝えしました。

基本的に書いてほしいことは次の3点です。

  1. あなたの夢(未来について)
  2. その夢を持ったきっかけ(過去・現在について)
  3. そのために大学(or 企業)で何がしたいのか(近未来について)

ということです。しかし、基礎編で本当に伝えたかったことは他にあります。枠組みばかりを意識するとどうしても中身の薄い志望理由書になってしまうことが多々あります。ですので、型に当てはめようとするのではなく、まずは以下のことを念頭に置いてください。

志望理由書を出さなければならないとき、そこで相手から求められていることは、その人が一貫して何かに取り組んできたことから得た相手をひきつけるような魅力です。じゃあ、その魅力はどうすれば出るのか。それはあなたの経験を振り返り、現在のあなたと繋ぎあわせ、それを今後どうしたいかを決める作業を真摯に行うことです。そうすることで、信念を持った人であることを相手に伝えることができます。その信念こそが魅力として相手に伝わります。

以上のことを意識した上で、今回は、志望理由書でもっとも重要になる、型の部分でいう「夢を持ったきっかけ(過去・現在について)」のところにあたる「自分の経験」の書き方について整理したいと思います。

1. 「自分の経験」が志望理由書の要

志望理由書といえども、結局のところその半分以上を割くことになるのは「自分がどんな人間か」を伝えることです。それはなぜでしょうか。

例えば、「将来、医者になりたい」となりたいことを書き、「医者は多くの人を救うことができる」「小さいときに助けてもらった」「憧れの仕事である」などの理由を並べるとしましょう。それだけでは何かが足りないように思いませんか。その足りないものとは、「志望していること」はわかるのですが、「今まで何か努力してるの?」という現実性の問題であり、さらに「なぜ、他の人でなくあなたが医者になる必要があるのか」という、他の誰でもなくあなたがそれをすべき妥当性です。

では、さらにどのような内容を書くべきでしょうか。先の医者になりたいという例であれば、「高校の生物の授業で遺伝を習って以来、遺伝の分野に強く興味を持ち、近くの大学で開催されるシンポジウムに参加したり、高校の論文でガンに対する遺伝の関係について研究したりした。そうした興味をさらに発展させ、医師になるとともに、遺伝学からのアプローチによってより高度な医療技術を確立したい」などということを含めれば、他の高校生よりもこの人が医者になるべき理由が客観的にありそうです。何せ、すでに自分の分野でやりたいことを自分のできる範囲でやっているのですから、ただ「~したい」という状態の生徒より現実性がありますよね。

つまり、志望理由を書くときに最も重要であり字数を割くことにもなる箇所というのは、「自分がどんな人間か」あるいは「自分が何をしてきたのか」ということを通して将来の夢に対する現実性と妥当性を伝えるところなのです。

2 「.そんな経験したことない」と思ったとき

そこで問題となるのは、「そんな経験したことない」という人です。というよりは、ほとんどの人はそんな経験したことないですよね。そこでいくつかの解決策があります。

2-1 イベントやキャンプ、ツアーに参加する

まず解決策の1つ目として、「期間限定イベントに参加する」という方法です。例えば、夏休み中のサマーキャンプやスタディーツアー、政府の主催する「青年の船」などの青年国際交流であったりです。こうしたイベントから知れることはたくさんありますし、学校以外の人とリアルに知り合うとてもいい機会だと思います。

以下、具体的な活動も紹介しておきます。

  1. 内閣府の青年国際交流事業:日本政府が行っている中高生対象の様々な国際交流プログラムです。特に「世界青年の船」事業は有名。
  2. learning across borders:最も質の高いスタディーツアーの一つだとおすすめしたいアジアのスタディーツアーです。大学生中心。
  3. 日本の次世代リーダー養成塾:高校生対象のリーダー養成としては先駆け的存在。
  4. Youth Connection @ STARBUCKS:コミュニティコネクションの一環として行われた高校生対象のプロジェクト。

探してみるとまだまだあると思います。できるだけ主催がしっかりとしているものを探すといいでしょう。

2-2 専門分野の知識を高め、論文を書く

2つ目の解決策は、自分の興味のある専門分野に関する専門書をまとめて5冊しっかり読み込むことです。本は、著者が何年もかけて経験したことをまとめたものなので、自分の経験不足を補うような情報や考え方を学ぶことができます。その知識をもとに何か簡単なアウトプットを行うことができればさらにいいでしょう。論文コンテストや作文コンクールなどを探してみましょう。学校によっては、課題などで論文を書く機会もあり、それを利用することも可能でしょう。

以下、具体的な論文コンテストも紹介しておきます。

  1. 小泉信三賞全国高校生小論文コンテスト:慶應義塾大学主催の小論文コンテスト。大学への推薦のときにもかなり評価されます。
  2. 高校生小論文コンテスト:毎日新聞主催の小論文コンテスト。こちらもかなり有名です。
  3. NRI学生小論文コンテスト:野村総合研究所が主催する小論文コンテスト。こちらは大学生も対象。

2-3 地元でフィールドワークやインタビューを行う

3つ目の解決策は、自分の興味のある分野の経験者に自分で連絡を取り、そしてインタビューすることです。それが親でも学校の先生でも、あるいは地元の商店の店主でも、誰であれ、かまいません。お願いして、直接話を聞いてみましょう。

そうすることで、他の人が知らないような具体的な情報を得ることができます。例えば、あなたが医師に興味があるのであれば、実際に地元のお医者さんに話を聞いて、その地域の抱える問題を具体的に聞くことができます。もし、機会があれば何か手伝えることがないか聞いてみてください。さらに自分の経験を増やすことができます。

以上のように、とにかく、あなたが興味があることに対して、あなたが最もやりやすい方法で何らかの行動を起こしていくことが大切です。

3. 前半まとめ

あなたが将来の夢を伝えるうえで、最も重要になる経験をどのようにして増やしていくかについて説明してきました。

「具体的な将来の夢なんてない」という人もいると思います。それでいいんです。そもそも、将来の夢なんてふわふわしたものです。生まれた途端に将来の仕事が決まっているなんて時代に生きていないわけですから、それで悩むのも当然。ただ、何か具体的な行動をしながら、自分がどう感じるのか、他人からどう評価されるのかを経験することは、将来の夢がきまっていなくてもできるはずです。だから、先に行動をしておくことが大事。将来の夢はその後に自然と見つかるはずです。

以上、志望理由書の書き方(標準編 前半)では、経験の増やし方について説明しました。後半で、その経験の整理の仕方についてまとめたいと思います。

志望理由書の書き方(基礎編)

前回、志望理由書の書き方(入門編)を書きました。
shanghai-education.hatenadiary.com

前回の内容は、志望理由書を書くための心構えみたいなもので、一番大事なことではありますが、それ自体で志望理由書がかけるようになるわけではないですよね。ということで、今回から実際に書くためのプロセスに入っていきます。基礎編では、志望理由書の枠組みを紹介したいと思います。

 

1. 志望理由書の流れ

そもそも何を書けばいいの?という人も少なくないと思いますが、基本的に書いてほしいことは次の3点です。

  1. あなたの夢(未来について)
  2. その夢を持ったきっかけ(過去・現在について)
  3. そのために大学(or 企業)で何がしたいのか(近未来について)

この順番に丁寧に書いていけば志望理由書が書けます。例えばこんな感じです。

<志望理由書例>

(未来について)

私はアジアを担当する日本の外交官になり、アジア各国の関係を円滑化するためにリーダーシップを発揮したい。

(過去・現在について)

私は北京のインターナショナルスクールに6年間通ってきた。インターとはいっても、そこに通う生徒は、台湾、香港、韓国、タイなどのアジア系の生徒ばかりであった。そこで私は学年で唯一の日本人として通い、日本とアジア各国との関係を考える機会を得た。

中国で反日デモが起こったとき、中国系の生徒が私に悪口を言ったことがあった。日本人というだけで悪口を言われ、とても悔しかった。しかし、後でその話を知った韓国人学生が「私も日本の政治は好きじゃないけど、〇〇は私の友達だ」と言ってみんなに注意してくれた。そのとき私は彼の言葉に救われたし、それ以上にみんなをまとめた彼を尊敬した。そして、私も彼のような存在になりたいと思うようになった。

その後、同級生たちに日本の情報を発信しようと、観光ガイドを作るプロジェクトを立ち上げた。日本に関心があった同級生を集め、夏休みを利用して東京や大阪をまわった。ここで重視したことは、ゲームセンターを特集するなど、若い人たちで気軽に楽しめる刺激的な場所を紹介したことだ。学校で発表したところ大人気になり、北京の旅行雑誌の編集者の目にもとまり、その雑誌でも日本のゲームセンターが紹介された。

こうして私は、複雑な問題を抱えるアジア各国であっても、リーダーシップをとって適切に情報を発信していれば、良好な関係を保つことはできると実感した。そして具体的に外交官という仕事を意識するようになった。

(近未来について)

私の目指すリーダーシップのある外交官になるためには、まだまだ学ばないといけないことが多くある。歴史問題、国際政治や国際法、比較文化など幅広く学びたい。また、情報発信の手段が極めて多様で簡易化している現代において、メディアでの情報発信もしていきたい。

以上のことを踏まえて考えたとき、貴学は私の学びたいことを最も多く学べる環境だと思った。外交に詳しい〇〇教授や、メディアの実践論を教える〇〇教授などは特に魅力的だ。また留学生や留学先の大学の選択肢の多さは、さまざま国や地域の人の考え方を理解する絶好の機会だと思う。

以上から、私はアジアで活躍できる外交官になるために、貴学を志望する。(1000字程度)

(例として適当に書いたものですので、事実とは異なります)

 

2. 枠に合わせても、内容がないと陳腐になる

こうして枠にはめて書いてみると、ある程度のものが出来上がります。上の志望理由書の例も、「①あなたの夢→②その夢を持ったきっかけ→③そのために次に何がしたいか」という流れを意識して1時間程度で書いた文章です。まずこの程度まで書ければ、他の学生とそれほど差は出ないと思います。むしろ、どこかの機械で採点させれば良い点数がでるはずです。

こうした志望理由書の採点というのは、あくまでも適切な語彙を用い、論理性や一貫性、具体性があって、それが志望先と合っていればいいだけです。もっと言ってしまえば、多くの志望理由書の添削で行われているのもこの観点からの指導です。

しかし、このレベルは少し練習すれば誰でも書ける内容であり、これだけでは本当に良い志望理由を書けるわけではありません。志望理由書を出さなければならないとき、そこで相手から求められていることは、その人が一貫して何かに取り組んできたことから得た相手をひきつけるような魅力です。

じゃあ、その魅力はどうすれば出るのか。それはあなたの経験を振り返り、現在のあなたと繋ぎあわせ、それを今後どうしたいかを決める作業を真摯に行うことです。そうすることで、信念を持った人であることを相手に伝えることができます。その信念こそが魅力として相手に伝わります。

だから、志望理由書の書き方(入門編)で伝えたように、志望理由書にコツなんてないんです。自分の信念は、コツでは生まれません。コツはあくまでもきれいに見せるための服のようなものです。コツだけで書かれた志望理由書はどこか陳腐に見えます

前回は「相手の立場で考える」ということが大事でした。今回は、自分のことをしっかりと見つめなおすことが大事です。それを面倒くさいなんて思わずに、時間をかけてやってみて下さい。

上海の教育事情について(2017年)

1.2013年→2017年 上海の日本人向け教育事情の変化概要

上海の教育事情について、2013年の記事をご覧になっている方が多くいらっしゃいましたので、ちゃんと最新の情報を発信していかねばと思い、更新頻度を高めようと思っています。というのも、2013年当時は日本から上海に来る方が多かった時期でしたが、今はまた状況が違います。以前よりも落ち着いた上海で、どのような教育事情なのかを客観的にお伝えできればと思います。

 

まず、2017年度になって目立ったことといえば、古北・虹橋ではウイングさん、浦東では上海アカデミーさん、enaさんなどの学習塾が教室を閉めたりしています。日本人も徐々に減るなかで拠点を集約しているのでしょうか。そのあたりの詳しいことまではわかりませんが。そうした学習塾の選択肢は減ったようにも思います。

 

一方、教育内容的には少し充実してきたのではないでしょうか。2013年頃までは上海に新しく来る日本人の方が多く、どの教育機関も増える生徒さんをどう対処するかに追われていた気がします。それは学校しかり、塾しかりです。例えば、日本人学校高等部では毎年のように先生の入れ替わりがありまし、先生不足に対応するために、経験の浅い先生方で何とか乗り切ろうとしている所もありました。しかし、最近ではそうした新しく来る日本人の方の数が減ったぶんだけ、逆に各教育機関には今いる生徒さんとしっかりと向き合う時間ができ、教育環境としては落ち着いたようにも思います。

 

2.上海の教育事情で最も変わったこと

ところで、一番大きく変わったと思うことは上海日本人学校浦東校の中学部の教育内容です。毎年定期テストは確認しているのですが、特に数学のテストが簡易化しています。逆に国語はやや難化傾向にあります。

 

この理由は簡単で、担当の先生の任期の問題です。以前数学で難しい問題を出すことで有名だった先生が帰国され、今の先生は比較的基本問題を中心に出すようになっているかと思います。そのため、以前であれば数学の定期テストの平均点が50点台ということもありましたが、今では平均点が60点後半から70点台と高くなってきています。

 

このこと自体はいい傾向だと思います。そもそも公立的な位置づけでもある日本人学校があまり難しい内容をテストに出すのは不適当だと思うからです。基礎的な知識やそれを少し応用する力を測ればいいと個人的には思います。

 

一方で国語は難化しているように思います。そもそも先生の要求するレベルが少し高い。テストの平均点が50点台だったときもありました。それを考慮せずに自分の子どもの国語力がないと心配する方もいますが、そうではなく、先生の要求しているレベルが上がったことが最も大きな原因です。

 

3.お伝えしたいこと

以上のようにあまり内容がない文を綴ってきましたが、何が申しあげたかったかと言いますと、昔の情報はあまり役に立たないということです。「日本人学校でどれくらいの成績を取っていたからどれくらいの高校に行ける」とか、「あの高校に行くにはどれくらいの偏差値が必要」とか、お母さん同士で話されたりしますが、その情報が何年の話なのか、そもそも事実なのかをしっかりと整理しておくことが必要です。

 

この記事を書いた一番の目的は、まずは情報収集ではなく、お子さんの現状をしっかりとみてあげることが何より大事、ということをお伝えすることです。テストの点数だけを見たり、過去の情報をいろいろ集めて焦られたりしても、それが何を意味しているのかを読み取るのは難しいです。

 

それよりも、まずは学校の勉強において、お子さんにどんな実力がついていて、どんな癖があって、どんな考え方をしていて、どうしたいと思っていて……というお子さん自身のことを見てください。そして、お子さんの現状をちゃんと理解したうえで、必要であれば何を改善していくかをお子さんと共有してください。

 

海外だから情報が無くて心配になり、いろいろと焦ってしまう保護者の方は多いですし、それはお子さんのためを思っていることは重々承知しています。しかし、その焦りのなかには少なからず「早く自分の心配事を片付けたい」という自分のための焦りもあるはずです。ですが、子どもは保護者の方のそんな気持ちを察してはくれません。ですので、保護者の方からお子さんの現状をなるべく理解してあげ、そのうえで本当に合う教育環境や進路等を探すのが何よりも大事だと思います。

 

志望理由書の書き方(入門編)

1. 一番大切なこと

入門編では、志望理由書の書き方の基本的なことについて説明しておきます。まず、書類を作成する上で一番大切なことを伝えます。
それは、相手の立場になって考えるということです。「自分をアピールする」のが重要ではなく、「相手がどんな人を求めているのか」ということを相手の立場で考えらえるようになることが大事です。

例えば、自分は「得点をたくさん取るストライカーです」とアピールしたとしましょう。相手もそういう選手を求めていれば、それでうまくまとまります。しかし、「ストライカーの選手層は厚いから、ディフェンスが欲しい」と思っている相手であれば、そのアピールは何の意味もありせん。

そういうことで、大事なことは「相手の視点」を持つことです。

2. 相手の立場で考えるために

では、どうやって相手の立場で考えられるようになるでしょうか。そこには2つの方法があります。1つ目は、「相手のことをしっかりと調べる」ことです。

特に相手の求める人物像を精読してください。そしてその人物像に自分が合っているかをじっくり考えてください。「有名なところだから」や「何となくの憧れ」だけではなく、実際に自分と相手との相性がいいのかを真剣に考えましょう。それが最低限のマナーです。

時間やある程度の知識がある方への情報収集の方法は標準編や発展編でお伝えします。

 

2つ目は、書類を見てもらう相手の貴重な時間を奪う、ということを意識することです。「そんなこと大事なのか」と思ったならば、あなたの書類はかなり雑なものになっています。

相手の貴重な時間を使って自分の書くものを読んでもらうという意識があれば、相手が求める情報を詳しく書き、読みやすい字体や言葉遣いを心掛け、必要とあれば資料を添付して……と、さまざまな配慮をするはずです。そうして、配慮されて作成された資料は、適当に作られた資料と明らかな違いがあります。なので、そうして相手の時間を意識することは極めて大切です。

3. コツなんてそもそもないから、気にしない

志望理由を含めた書類作成が苦手ということでコツを求める人が多いですが、そもそもコツなんてないと思ってください。合格した人の志望理由書を真似すれば合格ラインの書類になるわけではありません。

書類の採点とは、書類審査があるたびに大学や企業がそれぞれ独自に合格者を決めてきました。担当者の違いや、同じときに応募している人の書類の完成度の違いなどによって自分の評価は変わってしまいます。つまり、志望理由書に正解なんてない、ということです。

だからこそ大切なのは、相手のことをできる限り知り、その上で自分と相手が本当に合っているのかをしっかりと考え、そして相手のことを思いやってコミュニケーションをとることです。それが正解の書類作成です。

小論文を書く前に

小論文を学ぶ上で本当に必要なことは……

「小論文対策をします!」というと、多くの人が求めることは「コツ」であり、試験で良い点(あるいは、文章を書くのが苦手だという人は合格点)を取るための方法です。当たり前ですよね。小論文が必要となるのは、日常生活上で何か問題があったり、学校の成績に大きく影響したりする問題があるからではなく、大学受験や就職試験という極めて具体的な目的を達成するためです。その具体的目標である「合格すること」が最も大事であり、その先のことまで考える必要性は感じられないからです。

 

しかも、試験に課されたとしても、書類や実績の方を重視し、小論文はそれほど重視せず形式的に課されているような試験もあって、この場合は無難な文章を書けば受かってしまうので、そうした誰でも書ける「コツ」があるかのように思われがちです。逆に、小論文重視の大学でも数カ月や、短いときには一カ月未満の準備期間で小論文を学んで受かってしまう人もいたりします。これも短期間で学べる「コツ」があるんじゃないかと思われてしまう一因です。こうした要因により、小論文は「コツ」があれば誰でも数か月、最短なら数週間で完成してしまう科目だと思われています。

 

正直、どちらの場合であっても、そもそも小論文を学ぶ必要はほとんどないと言えます。何も対策しないのは不安だから対策したいという「安心」のためだけに、塾や予備校で余計なお金を使ったり、学校の先生や親や先輩など他人の貴重な時間を徒に奪ったりするだけです。

 

もちろん、それでも不安になるという方もいます。そういう方は次のことをしてみてください。まず、小論文が重視されていない場合は、「5パラグラフ戦略」で十分ですので、インターネットで型を調べてみて、その通りに書けるようにしてください。それだけで無難なものがちゃんと書けるようになります。または、ある程度まとまった小論文を書ける人の場合は、もっと多くの本を読んで、その情報に対する自分の考えをまとめるようにしていれば語彙力や文章の妥当性が高まり、小論文の基礎力がつくので、それだけでいいです。

 

「じゃあ、小論文の対策って必要ないってこと?!」と思うかもしれません。それは、先に挙げたような、小論文が重視されていないときや、小論文を書く基礎力をもともと持っているときです。あなたがそのいずれでもない場合は、小論文を対策することは有効であると思います。つまり、「試験を受ける上で小論文が重要」であり、かつ「小論文を書く基礎力がない」というのであれば、もちろん対策すべきです。

 

いよいよ本題です。では、小論文を学ぶ上で本当に必要なことは何でしょうか。そのヒントはすでに出ています。そのヒントとは、誰にも教わらずに短期間で合格点に達する小論文を書ける人がいるということです。なぜ、この人たちはそんな小論文を書けるのでしょうか。それは、「普段から読んだり聞いたりしたものを理解した上で、自分が妥当だと思う答えをその都度持つようにしているから」です。もっと端的に言うと、「知識を得るごとに暫定的正解を持っているから」ということです。「日本の安全保障は…すべき」「環境問題は…すべき」といったその時点での正解を持ち、必要ならば新たな情報をもとに正解をアップデートするようにしているということです。

 

いろいろとゆっくり説明してきましたが、ようやく見出しに対する答えです。小論文を学ぶ上で本当に必要なことは、「暫定的正解」を持つために、普段から文章を精読したり、人の話を精聴することです多くの人は日々多くの情報を得ています。テレビやスマホアプリからのニュース、友達の話、学校の授業、問題集の文章などなど…。これらの情報を、自分の都合のいいところだけ聞くのではなく、しっかりと理解することです。そうすることで初めてその情報に対する是非(ときにはその両方や中間も)を答えることができるようになります。極めて自明なことですが、情報を十分に理解していないならば、それに対する思考や判断なんてできないわけで、もちろん何かを論じることなんてできないわけです。

 

「小論文の対策」としてすべきこと

もうすでに答えは書きました。普段から、現代文で取り扱う文章、あるいは新聞・雑誌などを読むときに精読をすること、そして授業やニュースなどを精聴することが小論文の最大の対策です。じゃあ、精読や精聴ってどうするのか、ということについて掘り下げてみます。

 

例えば、人工知能(AI)の可能性について特集したテレビ番組を見たとき、その番組の中から「人工知能は、人の仕事を奪う云々ではなく、あくまで人間の判断を手伝う道具だ」とか、「人工知能に対する違和感は、昔の人が初めて電話や飛行機を見たときと同じようなものなら、今の人たちはそれらに対する違和感がなくなっているように人工知能に対する違和感もなくなるだろう」といった話を聞いて、理解し、整理をしていきます。

 

整理ができれば、「将来、人間と人工知能はいかに共存するのか」と質問されても、その理解の上での暫定的正解を考えるわけです。「人工知能は人間と対立する存在などではなく、電話や飛行機などと同様、今まで人間にしかできないと考えられてきたことを助けてくれる便利な道具となる。例えば、論文の採点や面接の合否判定、仕入れの決定など、状況判断が必要となる場面で、より良い選択をする精度を高めてくれることになるはずだ」といった暫定的正解でいいわけです。もちろん、新たな情報を読んだり聞いたりしたときに、あくまでも暫定的正解は変わりうるわけです。

 

私も先日の小論文の授業で「臓器移植」についての問題文を読んだとき、そこでの論点は臓器移植という技術による「身体の公共化」の問題についてでした。臓器移植の技術的・倫理的改善とともに、システムによって人の身体が死とともに「接収」されるようになる方向へと向かっており、そこで起こることは、自分自身のものと思っている自分の身体が、公共のものへと変容していこうとしている、という内容でした。そうして整理していくなかで、「臓器移植」を人権問題として扱う視点を得られるようになるわけです。

 

次にそれに対して自分の意見を加えてみましょう。「筆者の言うように、われわれは技術の発展によって知らず知らずのうちに自分の体が自分のものでなくなるかもしれない時代に生きている。現状のままシステムに身体の公共化のゆくえを任せるのではなく、何らかの形で合意形成を目指すべきだ。例えば、もっと多くの人を巻き込んで広く議論するとともに、一人ひとりが自分の意志で自分の体を公共利用するかを決められるようにするなど、できることがあるはずだ」などです。これを暫定的な意見として、また別の知見を得て、新たな意見が出たらそれをアップデートしてきましょう。

 

小論文の対策、それはこうした情報をしっかりと聞いたり読んだりして整理するという精読・精聴の繰り返しです。精読・精聴を日々積み重ねたとき、小論文があなたにとっての強い武器になることは間違いないでしょう。

小論文テーマ①「共有地の悲劇」(思考の枠組み①)

「共有地の悲劇」について

今回はテーマに対して実際に答案を作成してみようかと思います。今回のテーマは前回のエントリーで簡単に紹介した「共有地の悲劇」です。まずテーマを読みましょう。

 

◆テーマ「共有地の悲劇」とは◆

ある共有地に牛を放牧して生活している人々を想像してください。この共有地は、そこを利用している人々に対して何らのルールもなく、自由に利用していい場所です。ただし、第三者に売り払うことだけはできません。そうした場合、次のことが想定されます。

①牛を一頭増やすことの利益は牛飼い個人で独り占めすることができる。

②それによって生じる共有地の荒廃という支払いは、その牛飼いが直接するものではない。間接的には、共有地の他の牛飼いたちと分け合うことになる。

となれば、合理的な牛飼いは、自分の利益を最大にしようとして、牛の数を出来る限り増やそうとする。共有地の資源が無限にあるのならば、それも問題にならない。しかし共有地のは資源は有限である。そして他の牛飼いたちも同様に自分の利益を最大にすることを考えるので、牛の数が共有地の許容量を超えてしまい、共有地の資源が枯渇するという悲劇的な結末となってしまう。

 

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以上が、「共有地の悲劇」の大まかな例です。放牧地がイメージしにくいのであれば、それを海にして、牛飼いではなく漁師として考えてもいいでしょう。あるいは、放牧地を地球と考えると、牛飼いたちは各国家なり各企業として読みかえることも可能です。

 

さて、以上の内容をもとに、答案の作成について考えてみます。

 

「共有地の悲劇」について、具体例をあげて論じる(1,000字)

ここから解答を作成してみます。小論文を書く際の論理展開は次のように考えます。

①共有地の悲劇とは何か?(テーマ理解)

②それに対する身近な例を上げる→何かしらのルールを決める必要性を指摘(具体例)

③解決策として自分の考えるルールをのべる(自分の考え)+まとめ

 

 

以下、順番に解答を作成する前にまとめます。

 

①共有地の悲劇とは何か(テーマ理解)

テーマが与えられる小論文の場合、まずはテーマをまとめることで、何が問題なのかの焦点を絞ることができます。ここで注意しておきたいことは、小論文を書く際のまとめは、国語の「要約」ではないということです。というのは、国語の要約は筆者の言いたいことを過不足無くまとめる作業であるのに対して、小論文のテーマのまとめは、自分が書きたい問題について焦点を絞っていくための作業です。ということで、ここでは自分が書きたい問題を絞りましょう。今回の場合、それは「合理的な考えで行動する個人が共有地を利用するとき、ルールがなければ、共有地の資源は荒廃してしまい、結果的に全員の不利益になってしまう」という問題点です。ここは、論理展開が間違わない程度にできるだけ短くまとめたいところです。

 

②それに対する例(具体例)

「合理的な考えで行動する個人が共有地を利用するとき、ルールがなければ、共有地の資源は荒廃してしまい、結果的に全員の不利益になってしまう」という問題を抱えた身近な例とは何かを考えます。すぐに思いつくのは環境問題のような問題だと思いますが、ここではあえて違うものを考えたいと思います。ここでは「テレビの報道」について考えたいと思います。

 

テレビの報道において、どんな事件をどれだけ報道するかについての明確なルールはない。事実、各テレビ局は自分たちの利益のもととなる視聴率をとるために、なるべく話題性の高い事件を中心に報道している。しかし、限られた放送時間内で放送できる内容も少なく、結果的に視聴者は同じようなニュースしか見ることができなくなる。また、視聴者を楽しませるために取材が過熱しすぎ、最悪の場合、ねつ造や誤報が生じてしまう。このような事態が行き過ぎると、テレビ自体の信頼性が失われ、メディアとしての機能を喪失してしまうことになりかねないだろう。

 

という例を考えてみました。少し無理やりテーマに合わせた感もありますが、高校生が書く小論文であれば、テーマから逸れずに出来る限り他の受験生と被らない内容を考えることも大事です。何より大事なのは、「合理的な考えで行動する個人が共有地を利用するとき、ルールがなければ、共有地の資源は荒廃してしまい、結果的に全員の不利益になってしまう」というまとめに合致していることです。

 

③解決策を考える

この後、上で具体的に提示した問題に対する解決策を考えます。ここが特に他の人と差がつくところです。ここでいかに論理性と現実性の高いアイデアを提案できるかです。論理性が高くても現実性が低いアイデアであればそれは提案としては不十分です。つまり、最後は論理性に加えて、説得力をもたせるための書き方が必要になります。例えば、こんな解決策はどうでしょうか。

 

【解決策1】

このような利益を上げるための行き過ぎた報道を防ぐためには、一定のルールが必要である。そこで、利益重視ではなく視聴者にとって価値のある情報を重視して流すようにテレビの報道を法律を作るべきだ。

 

【解決策1の欠点】

この解決策を提案してしまうことは大きな減点につながるでしょう。というのは、メディアへの規制を「法律」によって行うことは、政府がメディアを規制することであり、それは「報道の自由」の問題となってしまうからです。ということで、今回の例の場合、ルールを作る主体は政府でない方がいいでしょう。

 

【解決策2】

このような利益を上げるための行き過ぎた報道を防ぐためには、一定のルールが必要である。そこで、メディア同士で話し合って自主的なルールを作るべきだ。そうして報道におけるルールを、政府に頼る形ではなく、自分たちで作ることによってもメディアの力を維持できるはずである。

 

【解決策2の欠点】

この解決策の場合、残念なのはすでにこうした自助努力というのは各メディアが行っているという点です。放送倫理番組向上機構(BPO)という名前を目にしたことくらいはあるかと思います。少なくとも何かしら自分たちでの努力はしていると考えた方がいいでしょう。現状以上の解決策を考えたいものです。

 

以上のように、解決策1や2を考えてみてわかることは、解決策を考えるときに大事なのは、その解決策が「何か大原則を壊さないか」や「すでに行っていて、それでは十分に解決しないことではないか」といった検証を忘れないということです。さらにそのためには、その分野に対するある程度の知識も必要です。それをふまえた上でさらに解決策を考えてみましょう。

 

【解決策3】

このような利益を上げるための行き過ぎた報道を防ぐためには、一定のルールが必要である。重要なのはそれを誰が担うかである。国が規制することは「報道の自由」に反する。企業主体の報道倫理はすでに存在するが十分とは言えない。そこで私は、視聴者にとってより価値のある情報を流すことができる仕組みとして、報道を行うすべてのジャーナリストたちが所属できるような「ジャーナリスト組合」を作るべきだと考える。ジャーナリスト個人がそうして力をもつことで、メディアの企業としての利益だけでなく、彼らの倫理によってメディアの報道を規制できるはずである。

以上のように、共有地の悲劇はその共有地の状況に応じたルールを定めることで回避することはできると考える。

 

というようなものです。最後、解答例をまとめてみましょう。

解答例

 共有地の悲劇とは、「合理的な考えで行動する個人が共有地を利用するとき、ルールがなければ、共有地の資源は荒廃してしまい、結果的に全員の不利益になってしまう」という内容である。このような共有地の悲劇は、今日の環境問題や資源の問題などにも援用でき、その解決策を考えることは極めて重要である。

 ところで、この共有地の悲劇の具体例として最初に思い浮かぶのは「テレビの報道」だ。テレビの報道において、どんな事件をどれだけ報道するかの明確なルールはない。事実、各テレビ局は報道倫理もあるが、それよりも自分たちの利益のもととなる視聴率を優先して、なるべく話題性の高い事件を中心に報道しているように見える。そうなると、限られた放送時間内で放送できる内容も少なく、結果的に視聴者は同じようなニュースしか見ることができなくなる。また、視聴者を楽しませるために取材が過熱しすぎ、最悪の場合、ねつ造や誤報が生じてしまう。実際に、地下鉄サリン事件の際に誤報が起こったことは有名だ。このような事態が行き過ぎると、テレビ自体の信頼性が失われ、メディアとしての機能を喪失してしまうことになりかねないだろう。こうした状況を考えるとき、「テレビの報道」も一種の共有地として捉えることができる。

 このような利益を上げるための行き過ぎた報道を防ぐためには、一定のルールを設けることが必要であるだろう。重要なのはそれを誰が担うかである。国が規制することは「報道の自由」に反する。企業主体の報道倫理はすでに存在するが十分とは言えない。そこで私は、視聴者にとってより価値のある情報を流すことができる仕組みとして、報道を行うすべてのジャーナリストたちが所属できるような「ジャーナリスト組合」を作るべきだと考える。ジャーナリスト個人が力をもつことで、メディアの企業としての利益だけでなく、彼らの倫理によってメディアの報道を規制できるはずである。

 以上のように、共有地の悲劇を防ぐためには何らかのルールを設けることが必要だと考えられるが、さらに重要なことは、共有地を利用している主体がどのような性質を有しているのかに着目し、それに応じたルールを定めることであると考える。

(原稿用紙で952字)