上海教育事情ブログ

上海で個別塾「上海個別塾(シャンコベ)」を運営しつつ、上海の日本人向け教育事情についていろいろと書いていきます。上海だけでなく、他の海外からの中学受験、高校受験、大学受験について、一般入試や帰国生入試に分けてリアルな状況をお話します。

小論文を書くための思考の枠組み①「共有地の悲劇」

小論文を書く上での思考の枠組み

これから数回(今のところの予定としては4回)で、小論文を書く上で必要となる思考の枠組みをまとめたいと思います。そもそも思考の枠組みとは何なのか。小論文を書く上で、なぜそれが必要なのか。というところから整理しておきたいと思います。

◆思考の枠組みとは?

例えば、テーマが「貧富の格差」であるとしましょう。高校生の英語の教科書『CROWNⅢ』にも、「物は世界の10%の人のために作られている。残りの90%の人にとって、ただただ高くて買うことができない」という内容の話がありましたね。そういった内容が課題文として出たとしましょう。そして「この状況についてあなたはどうか考えるか」という問題などを想定しています。

 

小論文を始めたばかりの生徒だと、こうした問題に対して「やっぱり格差が大きいのは良くないから対策すべき」や「それは個人の努力で解決すべきで、国や社会が積極的に是正しようとすべきでない」など自分の直感的な結論だけを述べるに終始してしまいがちです。それだと字数が足りなくなったり、話が前後したり重複したり、論文というより感想文みたくなったりもします。そういう人は、思考の枠組みを持ってその問題を捉えようとし、そして「論じる大まかな方向性を定める」ということを考えましょう。

 

では、「貧富の格差」をどう捉えるのか。詳しい「共有地の悲劇」の話は次回で書きますが、結論から述べると「共有地の悲劇」を読むことによって問題の一つの捉え方がわかります。ここでは、ごくごく簡単に「共有地の悲劇」を紹介しておきます。

 

「共有地の悲劇」とは、「共有地」つまり「資源が有限な場所」において、自己の利益を最大化しようとする個人の合理的な行動は、それが集積した結果、「共有資源の過剰利用」へと繋がり、最終的に不合理である「共有地の崩壊」を導くというものです。具体的には次回に説明するので、ここでは、要するに「みんな自分勝手に共有資源を使うことで、結局その資源がダメになってしまう」くらいに理解しておいて下さい。では、それをどう防ぐのか。それは「何かしらのルールを設けること」です。そこまでを論じることは比較的容易です。あとは、問題ごとにどのようなルールを設けるかを考えるだけでよくなります。もちろん、ここが一番難しいですが。こればかりは問題ごとに考える必要があります。

 

さて、そうして「共有地の悲劇」の問題を理解しておくと、ある決まった資源を分配するような場合においては、同様に「あるルールを設けることが必要」だと考えられるようになります。貧富の格差の問題も、市場という有限の共有地で競争をすることになるので、各人が自己の利益を最大化しようとしすぎるあまり、その市場をダメにしてしまう可能性があるわけです。例えば、極端な話、あまりにも格差が広がってそれに耐えられない人が増えると革命が起こって市場を壊してしまうとか。そしてそうならないように、「何かしら富の再分配のルールは必要だ」というところまでは考えられるわけです。(あくまで、一つの捉え方です。他の捉え方もできるということは忘れないでください。)

 

そこまで捉えたら、論じる大まかな方向性」が定まります。最後に考えるべきことは「どんな富の再分配のルールを設けるか」です。例えば、生活保護やベーシックインカムを導入するとか、教育と医療はすべて無償にするとか、ワークシェアリングするとか、そこにその人の思想が表れるわけです。

思考の枠組みは、ある種の「定石」である

ということで、「共有地の悲劇」を理解すると、同じような枠組みで捉えられる問題にはそうして論理展開を定めることができるわけです。思考の枠組みを持つ必要がある理由が理解してもらえたでしょうか。

 

数学には「チャート」という参考書があります。この問題にはこうやって解けというのを何百と紹介するわけです。あるいは、将棋や囲碁には「定石」というのがあります。ある程度決まった戦法です。もちろん、そうした指針や定石以外の戦い方もあります。しかし、一旦はその指針なり定石なりをしっかりと身につけるのが必要なのであり、それは小論文も変わらないのです。そしてその指針なり定石にあたるのが、小論文においては「思考の枠組み」。これから最小限の思考の枠組みを紹介していきますので、まずはそれを身につけてみてください。