上海教育事情ブログ

上海で個別塾「上海個別塾(シャンコベ)」を運営しつつ、上海の日本人向け教育事情についていろいろと書いていきます。上海だけでなく、他の海外からの中学受験、高校受験、大学受験について、一般入試や帰国生入試に分けてリアルな状況をお話します。

日本の非常事態宣言の出口戦略について考えてみる

前回のエントリーで日本、韓国、中国、シンガポールの4か国を比較して、各国の新型コロナ対策の違いから文化的な違いを考察しました。

 

これらの国において、日本は不幸にも最初のクラスター対策が成功していたからこそ、3月中旬に自粛に対する緩みが生じ、それがちょうど欧米での感染拡大期(第2波の流行)と重なってしまった結果、日本中での感染拡大がみられています。その結果、2020年4月7日に安倍首相が「緊急事態宣言」を行いました。4月11日現在、期間は2020年5月6日までの1カ月間とされています。

 

しかし、1カ月という短期間で緊急事態宣言を解除することが本当にできると思っている人はどれくらいいるでしょうか。厚生労働省のクラスター対策班で数理モデルによるデータ分析をしている西浦博先生のインタビューを見てみると厳しいことがわかります。

80%だったら診断されていない人も含めて感染者が100 人まで戻るまでは15日間、それに感染から発病、診断など目に見えるまでの時間が15日加わり、1か月間だという話をしました。

それが、もし65パーセントだったら、感染者の数が減るまでに90日かかります。90日プラス15で105日かかるんです。あまりにも長くかかる。

仮に80%の人との接触減ができたとしても、1カ月後にようやく緊急事態宣言解除の判断が可能になるということです。さらに、GoogleのレポートNTTドコモの分析などですでに報告されているように現状では30~60%くらいの接触減であり、最短ルートでの解除はすでに厳しいようにみえます。

そこで考えたいのは、「どれくらい日本の緊急事態宣言が長引くか」ではなく、「宣言の解除の条件はどうあるべきなのか」という出口戦略です。最短でも1カ月、むしろ長期戦になる様相の新型コロナ対策ですが、多くの人は「二度と同じような自粛をしたくない」というのが本音だと思います。そのためには、ある程度は安全に生活できるための条件が揃う必要がありそうです。以下、いくつかのシナリオを検討してみましょう。

 

1.シナリオ①:5月6日からすべての社会経済活動再開するケース

最初に検討するシナリオは、「1カ月も我慢したのだから、早くすべての社会経済活動を再開させよう」というケースです。5月6日には首相からの緊急事態宣言の解除やそれに伴う経済刺激策(お肉券、旅行補助など)が行われたと仮定します。

その時点での全国の新規感染者数の数によりますが、10日の約600人よりは半分くらいの約300人に減っているとしましょう。3月の末であればそれでも大きな数字でしたが、5月にもなると4月の感染者数が多いので、感覚がマヒして「かなり減った」と感じてしまいそうです。

そこで、5月6日から多くの飲食店やライブハウス、クラブ、バー、学校などが再開されるとどうなるでしょうか。おそらく、まだまだ残っている感染者からどこかで誰かが感染していきます。そして2週間後には再び感染者数が大きく増加し始め、最悪の場合はオーバーシュートとなってしまいます。

ということでこれは最悪のシナリオですが、比較的想像しやすいケースなので、そんなに早急な経済活動の再開には慎重になるはずでしょう。

 

2.シナリオ②:社会経済活動を順に再開させるケース

次に検討するシナリオは、「1カ月して新規感染者も減少してきたから、優先度の高い仕事から順に再開させよう」というケースです。5月6日から順次社会経済活動を再開させます。その際の順番ですが、ここは上海市を参考にしようと思います。

  1. 上海市内にいる社会人の職場復帰
  2. 飲食店、家政(お手伝いさん)、ヘアサロン・美容室の一部再開
  3. 博物館23館、美術館17館、図書館や文化施設33カ所が営業再開
  4. ゲームセンター、カラオケ、インターネットカフェ、大衆浴場などの営業再開
  5. 学校の再開(予定)
  6. 劇場、映画館、屋内プール、地下スポーツ施設の再開(予定)

上海では1月24日に春節に入って以降、休業が続いていましたが、まず2月10日以降に社会人の職場復帰が始まりました。休業してから約3週間後のことです。しかし、この時点ではまだまだ工場などは停止しています。

その後、2月18日以降に新規感染者がほぼ0人という状態になります。それから10日ほどの2月29日にはショッピングモールと百貨店は95%程度、コンビニは91.4%、Eコマース業界の主要な企業が再開したと発表されています。それと同時に、飲食店や美容室などが許可制で再開できるようになりました。(JETRO ビジネス短信

つまり1か月後に再開しているのは、「オフィス勤務のビジネスマンと小売店および、一部の飲食店」です。

さて、それからさらに2週間ほどして3月16日には、一部の娯楽産業を除いたすべての産業で営業の再開が許可されています。このあたりで工場なども徐々に再開してきています。これが約2カ月後のことです。(JETRO ビジネス短信

 そして、4月になってからは郵便や出前等をする人のマンションへの出入りも許可されました。また、4月27日以降は順次学校も再開される予定です。これが約3カ月後のことです。一方、今でも映画などはまだまだ再開の目途が立ってはいません。

新規感染者数の数で日本と上海の社会経済活動のリスクはかなり違うと思いますが、同様の順番で経済活動を再開させるとするならば、5月6日で再開できるのは「自粛要請を行っていない業種のみ」ではないでしょうか。つまり、5月6日時点では、それほど現状と変わりません。その後、1カ月近く遅れて、リスクの低い業種、さらに数週間から1カ月遅れて学校が再開されるようなイメージです。そう考えると、このシナリオでも学校が再開されるのは6月末~7月になりますし、コンサートやイベントの再開は見通しがつきません。

 

3.シナリオ③:新規感染者数を0にしてから社会経済活動を再開させるケース

シナリオ①やシナリオ②は、5月6日時点での新規感染者数が何人かはあまり重視せずに考えたシナリオです。しかし、現状から考えて日本の再生産数は1を超えている様子であり、1カ月後の5月6日時点でそれほど新規感染者数が下がっている可能性は低いとみています。

本来、出口戦略で重要なことは「8割の接触を減らす」までしなくていい状態にすることです。そのための条件は、「①新規感染者を限りなく0にしておくこと」および「②地域外や海外からの輸入症例は徹底して空港で抑えること」だと思っています。

①についてですが、数十人の新規感染者が出ている状態で普通の社会経済活動を再開してしまうと、また感染拡大が始まり「緊急事態宣言2」みたいなのが行われかねません。そこで必要なことは、「接触するであろう相手が新型コロナ感染者ではないと信頼できること」が必要であり、そのためには潜伏期間も考慮して新規感染者が0になっている状態が2週間は続いていないといけません。

②についてですが、地域内で収束すると今度は都道府県境や国境を越えての輸入症例に気をつけるようになります。これは今すでに多くの国が鎖国状態となっていることからもわかると思います。すでに新規感染者が0の地域や国同士は行き来ができそうですが、そうでない場所からの入境者には「拒否」もしくは「14日間の施設等での隔離」を要求するようになります。

ここまですることを考えると、①が達成されるには、「ロックダウン」のような強力な接触減が必要になります。この「ロックダウン」への方針転換をしてからの1カ月以上の期間+新規感染者0の期間を2週間をようやく出口が見えることになります。必要となる期間は3~4カ月ではないでしょうか。

この場合では、全面的な社会経済活動の再開は7月以降、そして学校の再開は9月以降と考えるのが良さそうです。

 

4.まとめ

以上、3つのシナリオを考えてみましたが、この中で一番良いシナリオはおそらくシナリオ②だと思います。ただし、そのためには感染拡大を起こさずに社会経済活動を再開できるくらいの感染状況にしておかなければなりません。そのために西浦先生が言うように「8割の接触減」が必要なのです。

「当たって砕けろ」的にシナリオ①が選ばれる可能性はないと思いたいのですが、今の状態だとシナリオ③に近づいていきます。これだと経済的にも精神的にもつらい。1人1人が意識して人との接触を減らし、なるべく早く多くの活動を再開できるようにしましょう。