上海教育事情ブログ

上海で個別塾「上海個別塾(シャンコベ)」を運営しつつ、上海の日本人向け教育事情についていろいろと書いていきます。上海だけでなく、他の海外からの中学受験、高校受験、大学受験について、一般入試や帰国生入試に分けてリアルな状況をお話します。

各国のコロナ対策の違いから考える文化的相違

昨今、欧米や東京での新型コロナ感染の拡大が極めて深刻な状況のなか、欧米や東京で生活する学生の皆さんには、とても先行きの見えない不安な日々が続いていることと思います。

 

一方で、今回の新型コロナについて、いろいろな観点から学ぶことはあります。各国の政府の対応の違いから政治を学び、各国で起こっている人種差別から心理学や社会学を学び、あふれる情報の伝播からコミュニケーションを学び、感染者数の増加予測からデータ分析を学ぶこともできます。

 

私は、これを学習機会にして欲しいと思っています。そこで、今日は各国のコロナ対策の違いについて私自身が考察してみようと思います。参考にするのは以下の資料です。日本の対策はクラスター対策班の資料、韓国の対策はYoutubeでのインタビュー、シンガポールや中国の対策についてはそれぞれ査読前論文から情報を集めました。

 

1.Coronavirus Disease (COVID-19) – Statistics and Research

2.实时更新:新型冠状病毒肺炎疫情地图

3.押谷仁「COVID-19への対策の概念」クラスター対策研修会(2020年3月29日)

4.新型コロナクラスター対策専門家twitter

5.韓国の医師Kim Woo-joo(Korea University Guro Hospital)のインタビュー

You Need To Listen To This Leading COVID-19 Expert From South Korea | ASIAN BOSS

6.Amna Tariqら"Real-time monitoring the transmission potential of COVID-19 in Singapore, February 2020"

7.Nian Shaoら"CoVID-19 in Japan: What could happen in the future? "

 

これらをもとに、日本、韓国、シンガポール、中国の4か国のコロナ対策の違いと、「なぜそのような違いが生じたのか」についてまとめてみようと思います。

 

1.現状の各国比較

まずは4か国の現状を分析します。3月23日から4月3日までの新型コロナ感染者および死亡者数は以下の図のように推移しています。日本は他国と比べ傾きが緩やかなのがわかります。

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表にまとめてみると以下のようになります。この表をみたとき、今回の新型コロナというのは、かなり恐ろしいウイルスだと感じました。

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ここではシンガポールは国の広さや人口が大きく違うため、あまり比較対象にならず、日中韓の3か国のみを比べます。日本は、韓国や中国と比べて、死亡者数の増加1人当たりの感染者数の増加が多いことがわかります。つまり、日本は感染者が増えるわりに死亡者が少ないということです。

その理由は「中国や韓国の医療水準が低いから」ではないはずです。そもそも有効な治療法がない今回のケースで、それほどこの3国による死亡率の違いが出るわけではないと考えられます。あるいは「日本の新型コロナウイルスは弱いウイルスなのではないか」や「日本のBCGに予防効果があるのではないか」などその他の説明がされる場合もあります。しかし、それらはまだ科学的な検証がされておらずこれ以上は言及しません。

私が考えているのは「感染者が死亡するまでにかかる時間が長い」ということです。実際、最初に感染の中心地となった中国湖北省では、3月11日には新規感染者数が1ケタの8人しかおらず、3月16日以降、ほとんど新規感染者は出ていないことになっていますが、現在でも感染者が834人います。この多くは入院を必要とする程度の重症なのだと考えられます。そうすると、「死亡者の増減は、感染者の増減から3週間以上のラグがある」と考えるべきだと思われます。何てしつこいウイルスなんだと思います。

つまり、死亡率は感染が減少し始めてもしばらくの間上がり続けます。日本は仮に今の時点で感染拡大が収まったとしても1カ月程度は死亡者が増加していくと考えられます。日本はまだまだこれから新型コロナウイルスの影響を本格的に受けていくのだと考えられます。

 

次に、どうしてこのように新型コロナウイルスの影響の時期に違いが生じたのか、各国の新型コロナ対策の違いをもとに考察したいと思います。

 

2.各国の対新型コロナ政策の違い

日本、韓国、シンガポール、中国ではそれぞれに対策の方法として違いがみられます。こうしてまとめてみると各国の戦略の違いが明確にわかります。

 

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【中国のケース】

まず中国です。中国は武漢が感染の中心地になったことから1月23日に武漢の封鎖を行いました。そのとき上海にいた私は「中国はやることが強制的だな」とくらいにしか思いませんでした。その後の1月下旬以降、北京や上海でも外出の自粛や集会の禁止、休校、春節を伸ばすことによる企業活動開始の延期などが次々と行われ、徹底的に人同士が接触する機会を減らすようにしました。

こうした強力な社会経済活動の停止をともなう感染拡大対策を素早く行った背景には、中国の研究者たちによる数理モデルを用いた分析によると考えられます。復旦大学のNian Shao氏らも徹底した感染者の隔離の重要性を訴えています。中国では早い段階からこのような計算が行われ、たとえ経済活動が停滞したとしても、人の接触を減らす以外に感染拡大を防ぐ方法がないと考えているのだと思われます。

3月以降は海外からの輸入症例が多くなり、重点対象国のリストにある国から入国した人に14日間の自宅か施設での隔離を義務付けました。さらに、3月28日以降には全ての外国人の入国を制限しています。

【シンガポールのケース】

次にシンガポールのケースを見てみましょう。シンガポールでの最初の感染者は2020年1月23日の中国人観光客でした。さらに、2月4日以降には中国人観光客が訪れたYong Thai Hangという漢方店で最初のクラスターの発生が発見されます。以降、複数の中国人観光客が訪れた施設等で小規模なクラスター内での感染が発見されます。

そこでシンガポールが取った対策は、クラスターの早期発見と徹底した感染者間のリンクの追跡でした。(ここは日本の初期の対策に近いと思います。)以下のように感染経路を細かく追い、そしてそれ以上の感染拡大を防ぐというものです。

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その結果、基本再生産数が2月には1前後だったのが、3月9日には0.9になったと、Amna Tariq氏らが計算しています。その後、海外からの入国者たちの感染が増えたため、3月23日からはすべての外国人の入国を禁止する措置をとりました。

シンガポールの場合、国内での国土や人口規模の小ささから考えて感染者全員を追跡するのが可能であったと思われます。しかし、それであってもリンクを追うことができない感染者が一定数いたり、集団での大規模感染のリスクはあることから、4月3日には1カ月の学校等の閉鎖が発表されています。

 

【韓国のケース】

現時点で、韓国は新型コロナウイルスの封じ込めに最も成功した国と世界的に捉えられています。そんな韓国ではどんな対策が取られてきたのでしょうか。もともとは1月~2月前半には大規模イベントの自粛等の要請を行っていました。しかし、2月18日以降、大邱で宗教団体の感染が確認され、その後日を追うごとに感染者が増えてしまったのです。ここからの韓国の対策が注目すべきところです。

まず、1日平均でも15,000件の検査を実施し、陽性者は全員施設での隔離を行いました。なぜ韓国ではそこまで大量の「検査」を実施できたのでしょうか。医師のKim Woo-joo氏のインタビューを見るとその理由が少し見えてきます。2015年のMERSが韓国で流行したとき、「ワクチンや治療法はすぐにはできない。しかし検査キットはすぐに作れる」と判断し、研究開発や資金調達、そのための法整備などを整えてMERSを乗り越えた経験があると言います。今回の新型コロナウイルスでも韓国はいち早く検査キットを開発し、大量の検査、陽性者の隔離を行っていき、それが大規模な感染拡大を防いだと考えられています。

さらに、3月以降には欧米からの帰国者たちに対する対策も打ちました。3月22日以降、韓国に入国した全員に対して検査を行い、陽性者のうち重症者は入院、軽症者は施設に入居、そして陰性であっても14日間の自宅隔離を義務付けています。そして自宅隔離者にはアプリをインストールしてもらい、1日2回の健康報告を義務付けています。ただし、中国やシンガポールと違い、韓国は現時点では外国人の入国を禁止するまでには至っていません。

 

【日本のケース】

最後に日本のケースを見てみます。日本は、シンガポールよりも早く、2020年1月15日から感染者が確認されていました。その後、武漢での感染拡大を受け、日本人を対象としてチャーター便の手配や隔離施設(ホテル)の準備など、いち早く対応を行いました。また、日本で新型コロナウイルスが注目されたきっかけが2月3日のダイヤモンドプリンセス号での感染確認でした。それによって日本全国での新型コロナウイルスへの警戒は高まっていたように思います。

そして、東京や和歌山、北海道、大阪などでクラスターが発見されても、シンガポールのように徹底的に追跡と検査を行い、感染の連鎖を断ってきたと考えられます。同時に大型イベントの自粛要請や学校の全国一斉休業などによって、大規模感染のリスクは大きく低下させることができたと考えられます。専門者会議ではその時期を「第1波の流行」としています。

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しかしながら、3月中旬以降「大型イベントの自粛を一部緩和」や「学校の再開」との報道があって自粛が緩んだ時期に、ちょうど欧米での感染拡大も始まりました。そして飲み会や懇親会などを通じて、クラスターが東京や大阪を中心に多発するようになっています。これは「第2派の流行」とされています。この時期に日本の感染対策が緩んでしまっていたことをとても危惧しています。先にも「日本はまだまだこれから新型コロナウイルスの影響を本格的に受けていく」と書きましたが、各国との対策の比較をしてみるとさらに不安が募ります。

 

3.対策の違いからみる各国の得意・不得意分野

さて、今回の目的は4か国の新型コロナ対策の違いから各国の文化的な違いを考察することです。

 

まず、「初動の丁寧さ」や「地道な追跡調査」については、日本やシンガポールが他の2国よりも優れているように見えます。中国や韓国では、日本やシンガポールで見られるような丁寧な追跡調査はできておらず、早い時期での感染拡大を引き起こしてしまっています。

一方で、韓国が優れているのは「検査キットの開発」です。ウイルス感染症を多く経験してきたからこそ、いかに早く全容を把握し、感染の拡大を止めるかを徹底して考えています。

また、中国が優れている点は、「さまざまなデータ分析による予測」です。武漢での感染拡大以降、数カ月のうちに中国から数えきれないほどの論文の発表がされており、様々なレベルでのデータ分析がされていました。それを受けて「政治的な強制」によって都市をロックダウンしたところも強みと言えなくもないですが、そこは諸刃の剣だと思います。

こう見ると、各国がそれぞれの優れたところを活かして「第1波の流行」を抑えたというのはとても興味深いところです。

 

ところで、日本は「第2波の流行」の前にとても大きな弱点を見せたように思います。その日本の弱点とは「柔軟に変化に対応ができない」ところです。一度「自粛が緩和されるか」と報道されると、欧米の流行が起こっていることへの警戒を解いてしまい、他の3ヶ国が自粛を続けたり入国禁止や隔離措置を設けるなか、日本は対応が後手に回ってしまった印象です。

日本は運が悪かったとも言えます。韓国や中国は「初動の雑さ」が弱点であり、早い時期に感染を拡大させてしまいました。しかし、それによってその後の欧米からのウイルスの流入に警戒心を保つことができています。一方、日本がクラスター対策班の専門家の努力によって、感染の連鎖を効果的に断ち切れていたため、警戒が緩んだときに「第2波の流行」が来てしまいました。大阪や北海道などのクラスターが発生している時期であれば警戒していたのでしょうが、タイミングが悪かったとも言えます。

しかし、これからは柔軟に対応する必要があります。いまだに「学校は予定通りに再開する」と言っている人たちがいるのは心配です。今回の新型コロナウイルスはとてもやっかいなウイルスであり、状況の変化によってその都度に対応を変える必要がありそうです。