志望理由書の書き方(標準編 後半)
前回、志望理由書の書き方(標準編 前半)を書きました。標準編では、志望理由書の中心となる「自分の経験」の書き方をお話しています。
さて、前半で書いたように何かの経験をしてみた、あるいは、もともと自分で何かにずっと取り組んできた、ということがあれば、次に「その経験をどう整理して書くか」を考えます。
整理とは、不要なものを捨て、必要なものだけを残し、そして正しい順番に並べることです。どれだけいい経験をしてきたとしても、整理がしっかりとできていないと相手にうまく伝わりません。では、不要なものと必要なものとはなんでしょうか。
1. 経験の書き方(悪い例)
例えば、帰国子女であることの経験を書きたいとします。何も考えずに書くとこんな感じになることが多いと思います。
私は小学5年生から中学3年生までをタイのインターナショナルスクールで過ごした。タイの生活リズムはゆっくりしていて、おおらかな人が多いため、海外生活が初めての私にとっては過ごしやすい国に感じた。タイに来た当初は、タイの物価が低いことに驚き、日本とは全く異なる経済事情に興味を持った。しかし、経済発展が著しいタイでは、徐々に物価が高まり、その変化の大きさに社会の歪みが生じていることを感じるようにもなった。例えば、不動産の価格が上昇し、結局もともと資産を持っている階層だけがより資産を増やし、逆にそうでない階層についてはどんどん貧しくなっている。そのような状況を体感するなかで、私は経済学を学び、経済発展する国のさまざまな問題の解決にかかわりたい思うようになった。
さて、経験の書き出しとしてこういう内容を書く人はとても多くいます。その前後の内容などにもよりますが、こうした経験の書き方はそれほど良い志望理由書とは言えません。以下、何が良くないのかをまとめます。
- 経験したことが、そこで住んでいなくても経済指標を見たり旅行したりすればわかること。
- 本人が経験したことは、タイで生活をしたというだけで、具体的なことが書かれていない。
- 「変化の大きさに社会の歪みが生じている」の具体例が不動産の価格上昇の話であるが、それが本当に「歪み」になっているのか感覚的でしかない。
- 「タイの生活リズムはゆっくりしていて…」という個人の感想は稚拙に見えるので基本的に不要。
- 「経済発展する国のさまざまな問題」が何かについて漠然としていて明確に説明できていない。
- どれくらい物価が生じたのかを具体的なデータで示せていない。
以上が、この経験で指摘できる改善を必要とする点です。この悪い例をもとに、経験を書く上で必要なことをまとめると、それは何を経験し、何を学び、何をすべきだと考えたのかを具体的かつ客観的に、そして明確に書いていくということです。極めて基本的なことですが、多くの人は文章の内容に自信がないため、ぼかしたり、感覚的に書いたりしてしまいがちです。
2. 経験の書き方(良い例)
以下に、上の経験を修正したものを載せます。
私は小学5年生から中学3年生までをタイのインターナショナルスクールで過ごした。タイに来た当初は、タイの物価が低いことに驚き、日本とは全く異なる経済事情に興味を持った。しかし、経済発展が著しいタイでは、徐々に物価が上昇し、私の興味は実感する物価上昇とデータでの物価上昇との違いに移っていった。例えば、バンコクで人気のレストランの値段はこの5年間で全体的に2倍近く上がった。一方、消費者物価指数は2012年から2017年では約5%しか増えていない。この差がなぜ生じるのかを深く理解したいと思ったのが私の経済学への興味の始まりであった。
調べていくうちに、一橋大学の阿部修人教授が、消費者物価指数と実感値の差を減らそうと新しい指数として「一橋大学消費者購買指数」を作るなど、より正確な経済指標そのものの研究が現在進行形で研究されていることを知った。そこで自分でも、タイの消費者物価指数と実感値との差を知ろうと、学校の友人たちに協力してもらい、100世帯に物価意識調査のアンケートを行いデータ分析を行い、消費者物価指数と比較したものをまとめた。その中で、特に最低賃金が上昇したとき、物価上昇意識がデータと大きく乖離することを明らかにし、それを学校でEEとして提出した。学校の先生からの評価も極めて高く、物価を正確に測ることへの期待や可能性が高いことを強く感じた。そして、将来的には発展途上国におけるより正確な経済指標を専門的に研究したいと思った。
このように、できるだけ具体的に事実、そこから経済学の中でも具体的な問題意識、そして自分の経験へと全体を通して具体的に話を展開していくことが重要です。徐々に具体的にしていくことで、あなたが何に取り組みたいのかが見えてくるようになります。最初は字数制限にかかわらず長い文章になってもいいので、できるだけ具体的に書いていってください。
3. 経験を書くときは逆三角形をイメージする
重要なことをまとめます。経験を書くときは、まずは大きな話から始めて、徐々に具体的に書いていくことを意識します。その際、ぼかすことなく、具体的に、具体的に、と書いていくことで、相手もあなたの人物像を想像できるようになってきます。
イメージするべきは、逆三角形です。抽象的な内容から、徐々に具体的に、そして最終的には唯一の存在としてのあなたに絞っていくようなイメージです。例えば、上の経験を書いている文では次のような流れになっています。
① 経済学に興味を持った。(抽象)
② 経済指標と実感値の違いに注目した。(抽象→具体)
③ 先行研究を見つけて、自分でも調査してみた。(具体の展開)
④ 経済指標に表れない要素を発見して、もっと深く研究したいと思った。(今後への課題)
ただ具体的なことだけ書いても日記のようになったりしますし、抽象的なことだけ書いてもただの情報の羅列のようになったりします。抽象から具体へと徐々に話を展開することを意識してください。なかなか適切な言葉が見つからないこともありますが、調べたり、本を読んだり、先生に聞いたりして、なるべく適切な言葉を探していく作業、それが志望理由書です。
次回は発展編として、近未来でやりたいことの書き方について説明したいと思います。